飯田つとむ氏(左は菅沢悦子さん)


もう1つの名前
菅沢さん 「『飯田つとむ』さんと、今ご紹介しましたが、『馬之介』さんというまたもう1つのお名前も持っていらっしゃいまして…それはどういったキッカケで…。」
飯田氏 「イキナリ入りますね、前置きも無しで(笑)えーと、名前を付けたのは『スプリガン』の監督をやっている川崎ですが、痩せてた頃に『1・2の三四郎』の馬之介に似ていたので「馬之介馬之介」と呼んでいたのですが、小松原さんが妙にその名前を気に入ってしまって…『ナウシカ』の動画をやっていたんですが、そのスタッフタイトルに『馬之介』で出してしまったんですよ。で、それでアニメ界の通り名になってしまったんで、まぁ『馬之介』で通そうかなという訳で、馬之介を名乗ってやっているんです。」
憧れの先輩
菅沢さん 「今回小松原さんの追悼上映ということで、小松原さんとの関わりを教えていただきたいんですけども…まず最初に、一番初めの出会いというのはどういった事がキッカケでしょうか。」
飯田氏 「まだアニメが一般的じゃなかった頃、高校生だったんですけど、まだアニメってどうやって描くのかわからないような高校生が、一生懸命原画を描いて「どうやったら動くんだろう。」と試行錯誤してて、高校出たらアニメーターになろうと思ったんだけど、学校って知らないんですよ。ガキだから。で、修学旅行に来た時に自由時間にアニメプロダクションで名前を知っていたオープロダクションに飛び込みで「ちょっと絵を見てもらえないか。来年卒業するんだけど雇ってもらえないか。」みたいな話をした時に、その時は小松原さんとはしらなくて会ったんですが、自分の絵を親切に見てもらったんです。」
菅沢さん 「そうですね、その頃からかなり面倒見のいい方だったというお話を聞いてます。」
飯田氏 「ダメなものはダメと直してしまう人なんで、あの、直されると全く良くなって行くんで、それは非常に納得できるな、と。いい親分でしたね。」
菅沢さん 「頼れる先輩というか…。」
飯田氏 「そうですね。仕事場では優しい顔…ま、集中すると僕らと違って背中からトゲトゲがいっぱい出るって言ってたんですけども、ちょっと近寄れないなみたいな感じがありましたけども、お酒飲むとやっぱ「本音だな」っていうのが…「まだまだお前もダメだ。」とかバシッと怒鳴られたりとかいうとか、そういうことが結構ありましたね。そういうのも含めて面白い人でしたね。」
菅沢さん 「やっぱ、よく飲みに行ったり、カラオケ行ったりとか…。」
飯田氏 「カラオケはね…まだ無かったね、僕らのときは。自分たちで歌うしかなかったんで…お酒はよく…小松原さん1人でお酒を飲むのが好きらしくて、スタッフはあまり誘われなかったような…。」
菅沢さん 「普段1人でフラ〜と行ってしまうような…。」
飯田氏 「深夜に僕らが動画描いてると、入ってきて「まだ仕事してんのか。」って怒られるとか(笑)」
菅沢さん 「親しみ持てる方だったんですね。」
飯田氏 「仲人してもらった友人なんかもいますしね。村田氏は「仙人」っていうカンジが…オープロの社長なんですけども、小松原さんは「兄貴分」っていうカンジで僕らは。」
菅沢さん 「小松原さんと一番最初にされた大きな仕事というのは…。」
飯田氏 「(笑)打ち合わせ通りですね。」
菅沢さん 「(笑)すいません。」
飯田氏 「えっと、やっぱ『デビルマン』になるんですけども。リストを見てたら動画としてはですね…えっと作画…えっとアニメーターでそれから演出・監督になっているんですけども、最初はどうも『わが青春のアルカディア』ですね。」
菅沢さん 「間違えてますね(笑)」
飯田氏 「でも『さよなら銀河鉄道999』の時、なみきさんのトコで会って…チラチラとアニ奴隷だった覚えがあるんですけども…。」
菅沢さん 「あ、ウチの主催者の…。」
飯田氏 「金田氏の原画ね、何描いてあるかわからない(笑)で、動画のときは『わが青春のアルカディア』で、それから『ナウシカ』。TVになっちゃうと『無限軌道SSX』とか、そのへん…ずーっとアルカディア号ばっかり描かされてて、イヤ〜な思い出がじわじわと思い出してきたんですけども。」
菅沢さん 「じゃ小松原さんとは随分長いこと…。」
飯田氏 「そうですね。アニメを見て育った人間で、(作品を描いている人が)一番上手いのは誰だって探っていくといつも同じ名前が出てくる。小松原一男とかって。だから、この人たちだったら、きっと上手いんだろうなと思って探って行くと大体そうなんですよね。」
菅沢さん 「顔は知らないけれども、名前だけはよく知っているっていう…。」
飯田氏 「だから、自分がアニメファンになった頃の小松原さんってすごい存在だったんです。で、『銀河鉄道999』とかも見てましたから、劇場版なんかは絵コンテが描けるくらい集中して見ていましたよ。今、集中して映画を見ることって無いけれども、その時はあとで話をしたときに、「あのシーンはどうだったよね。」って皆で絵コンテが描けるんですよ。そんな憧れた人を作画監督として作るわけじゃないですか、『デビルマン』とか。凄い胃が痛かったですよ。一応自分の構成でフィルムを作りたいと思ったときに、小松原さんにオーダーを出さなきゃいけないんですよ。で、オーダーを出すのはいいんですけども、オーダー出してあがってきた分が「ちょっと飛鳥涼を細身にして下さい。」とか、小松原さんに言わなきゃならないんです。バシッと叩いて「お前まだまだだな。」とか言われていた人にダメ出しっていうか…ちょっとイメージが違うって…まぁスタッフ協調性としてあたりまえのことなんですけども、25くらいのペーペーの若造が、大先輩で憧れの人にNGを出す…。毎日胃の痛い思いをして、早く歳とりてぇなぁ…って(笑)」

飯田つとむ氏…オープロ出身の演出家。『デビルマン妖鳥死麗濡編』の監督を手がけた。