村田耕一氏・才田俊次氏・小松原ナオ子夫人


小松ちゃんと出会った頃
なみき氏 「今日はいよいよ『小松原一男のアニメーション』…追悼とうたってはいませんが。僕らは亡くなったという事をまだ実感してしていませんので、あえて『追悼』とか『追悼上映会』ぜんぜん出していません。で、5日間やってきまして、今日はいよいよ最後の日です。最後の日は奥様を中心に話してみたいと思います。」
村田氏 「小松っちゃんと30年一緒にやってきた村田です。僕は小松っちゃんが他の人と違うなというのは、なんでも描けるという所だと思いますね。(展示してある映画ポスターを見て)そこにある絵を見て頂ければわかりますけども、まるで違うタイプの絵を平気で描いてしまう。普通、相当絵をかける人間になると自分の個性が非常に出るわけですけども、小松っちゃんの場合は非常につかみ所が無いというか…。画家で言えば「ピカソ」というカンジだと思います。あえて自分を、出来上がってしまうのを壊すようなところがあったと思います。それと、小松っちゃん自身があまり好きじゃないようなキャラクターでも、その中に取り込んでいって描いてしまう…まぁそれでも小松っちゃんの特徴がありますから、全体を通してみますと実に品のいいキャラクターで、メリハリがあると思います。アクションも細かい演技も、職人の中の職人といって違わないと思います。」
なみき氏 「最初の頃は、同じ作品を描いた頃があるんですか?」
村田氏 「一番最初、出会ったときは違う作品でした。オープロが始まった時点で僕は『アタックNo.1』をやって、小松っちゃんは『タイガーマスク』をやっていました。」
なみき氏 「小松っちゃんに『タイガーマスク』を引き継いだというカンジですか。」
村田氏 「そう。で、才田君がオープロの始まった時に入ってきて、小松っちゃんの下について『タイガーマスク』を描いた。」
才田氏 「そうなんです。僕はオープロダクションに原画見習いみたいなカンジで入ったんで、小松原さんに原画のやり方を教えていただいたんです。」
なみき氏 「小松原タイガーマスクは結構難しいですよね。やはり、30年前に『タイガーマスク』なんかを描かれていると、今描いている『ちびまるこちゃん』は非常に簡単なカンジが…。」
才田氏 「あれはあれで、パースがついていないのに、奥に行かなきゃいけないという難しい…(笑)」
なみき氏 「平面的なんだけど、動きは立体的に(笑)」
才田氏 「そうですね。結構、演出の付け方とか別の問題は出てきますけど、描くスピードは速いですね。オープロにお世話になった理由というのが、下請けで描いているときに小松原さんの原画が回ってきまして、これはこの人に習うしかないだろう。ということで、アニメーターが1人しかいないような会社を辞めました。」

『タイガーマスク 105話』
なみき氏 「タイガーマスクの105話(最終話)ですが、奥様にも思い出のあるとか。ちょっとお話いただけると…。」
ナオ子夫人 「本日は皆様どうもありがとうございます。おかげさまで、最終日を迎えまして、本当に嬉しく思います。タイガーマスクの最終回についてなんですけれども、私、主人と結婚いたしまして、新婚旅行に行ったんですね。その日がちょうど『タイガーマスク』の最終回だったんです。旅館まではタクシーを飛ばしまして、「何とかこの時間までについてくれ。」と運転手さんにお願いしまして。宿に着くなりチェックインもしないで「ここは、どこにTVがありますか。」と駆け込みまして、宿の方たちにビックリされていました。」
なみき氏 「アニメーションのために不幸になった花嫁の話でした(笑)」
家族だけが見た素顔
なみき氏 「奥様はご苦労された事も多いと思うのですが、小松っちゃんの素顔みたいな部分をちょっと…お話いただけたら。」
ナオ子夫人 「結婚して、まず驚いたのが夜中に会社の人を連れてくるんですね。私はそれまで普通の仕事をしていましたので、天と地がひっくり返るような生活になりまして。「今仕事が終わったから、これから飲んで食べるから何か作ってくれ。」と言うんです。でもこの人の人柄だから、出来るだけのことはやろうと思いました。で、年々仕事が忙しくなってきまして、キャラクター設定は自宅でやるんですね。本人外には出さないんですけど、いろいろ悩むんです。ラフに入るときは飲みながらやるんですね。私も原作的なものは読まされますし、「こんなカンジでどうだろう。」とか「主人公に対してはこう思っているんだけど…。」とか話していると、夜が明けてくるんです。とにかく少しでも原作者の思うところを崩さずに、自分の描きたいものを描きたいというところで苦心していたみたいですけど、私は主人の作ったキャラは全部好きです。」
最後に…
ナオ子夫人 「病気になって、本人は関係者には知らせてくれるなという一点張りで、ある程度事情を知らせたのが村田氏と最後まで仕事をしていたりんさんだけで、あとはほとんど病状を伏せました。痛みをこらえながら机に向かっている主人を見るのは忍びなかったんですけども…。最後の入院をするちょっと前は鉛筆を握るのがやっとで、座ると痛いんで立って仕事をしていたんです。そこまでしても自分の引き受けたカットはどうしても仕上げたいと言っていましたが、最後のカットだけは間に合いませんでした。病院で村田氏を呼んで…呼ぶまでも絶対渡したくないという思いがあったらしく、机の上に放りっぱなしで…「どうも仕上がりそうに無いから、村田氏呼んでくれ。」って村田氏に来ていただいて、「最後の1カットだけはどうしても仕上げて欲しい。自分がしゃべれる間に説明するから…。」ということで託しまして。託した後でも病院の先生に「とにかく右手だけでいいから…鉛筆が握れる程度でいいから動かしてくれ。」と言っていたんですね。…というのも、この『メガロポリス』が終わったら、どうしても『キャプテンハーロック』がやりたい。その後には「俺の好きなアニメーターを揃えて、大人から子供まで楽しめる、そういう商業意識しない作品を1本作りたいから治りたいんだ。」というようなことを言っておりましたので、今後アニメーターを職業としている方々に引き継いでいただきたい…なんだかおこがましいんですけれども、託したくてこのイベントを企画していただきました。主人とは飲んで歌って送ってくれという約束でしたので、なんとか企画いたしまして本日終わることが出来ました。主人はいなくなりましたが、作品は残りますので、これからも愛していただけたらと思います。本日はありがとうございました。」

村田耕氏… 小松原と共にオープロダクションを設立した。現在も社長として、また現役の作画監督として活躍している。
才田俊次氏… 元オープロダクションのアニメーター。『ハイジ』『未来少年コナン』などで活躍。『セロ弾きのゴーシュ』では、原画をすべて担当。
小松原ナオ子夫人… 小松原一男夫人。