高見義雄氏・りんたろう監督


小松っちゃんの絵は完成度が高い
高見氏 「僕は小松っちゃんと一番最後にした仕事は『蓮如物語』というのをやったんだけど、その時何人ものアニメーターさんが応募していたんだよね。でその時に、最後に「この絵がいい。」と皆が言ったのが小松っちゃんの絵だったんだよ。ちょっと小松っちゃんの絵の中ではちょっと遠く行くかな〜と思うんだよね、ただねビックリするほど完成度が高かったね。『世界観』って意味で。」

アニメーションは不真面目に作るからいい
りん氏 「いや…いい加減って言うんだけど『アニメーション』って、あんまり真面目に作って受け入れられるものじゃー。不真面目だからいいんだって言うね、あのー…真面目に作ればいいんだって言うのも違うし…。基本的には「絵が好きか」「動画が好きか」そういうハートが無いとダメなんだ。実際に絵を描いたり、それで食べていく…普通の生活をしている人たちから見ると、これほど不真面目なこと無いわけだよ。(略)だから僕はね、『不真面目』を真面目にやるという事が非常に重要であって、くそまじめにやりゃ良いってこと無いわけね。」
「実際僕らは徹底的にバカにされてね、『アニメーション』なんて言っても通じない時代で、『漫画映画』って言われてて、その時代から僕は小松っちゃんと出会っていたんだよ。その中でアニメーションで映画を作ってみたいと思っていたんだ。
世間的に大きな映画は『宇宙戦艦ヤマト』。次が『銀河鉄道999』。
その時、僕の通勤の地下鉄の路線に防衛庁があってね、『銀河鉄道999』派と『宇宙戦艦ヤマト』派に分かれて、電車の中で戦争論をやっていたんだ。そういう一種の社会現象を引き起こしたアニメだったんだけど、なんだかね喜んでいいのかね、その、国をねなんとかするヤツが「銀河鉄道」だ「ヤマト」だって(笑)
真面目にやれよと思ったんだけど、それくらいアニメっていうのは浸透していた。
『小松原一男』ってのは、やっぱ僕にとっては大きな存在だった。」

上手いのはあたりまえ
高見氏 「それと、僕らやっぱり上手いのは当然だと思うんですよ。「上手いですね。」って誉めたって、誉め言葉にならない。やっぱ上手いからあそこまで来たし。でも『ひたむきさ』という点に関しては、僕もかなわないほどひたむきだった。」
なみき氏 「上手いのは確かなんですよ。どんどん進化しているなってのが解りましたよね。」
高見氏 「『メトロポリス』をやる時に、コンピューターを進めたら「実は興味がある。」って。その時は、よく解らなかったからいずれ勉強して使おうって話になったんだけど、もしかしたらもっと新しい「小松原一男の世界」が出てきたかもしれないね。」
りん氏 「ある時…僕のスタジオ阿佐ヶ谷なんだけど、駅に行ったら鳩がいっぱいいるじゃない。で、鳩の中に小松っちゃんがいるんだよ。つまり、『メトロポリス』で重要なシーンに鳩が使われているんだけど、その鳩の重要さってのを駅前の土鳩で研究していたんだよ。一つ間違うと、家庭にいられない老人だよ(笑)」

日本のアニメは貧乏の中から(笑)
高見氏 「日本のアニメ界ってのはお金が無くてね、多分アメリカの制作費ってのは大体3〜4千万、日本は残念ながら7〜8百万しかないのね。で、その少ないお金をどうやって使っていくかというのは、物語性を出したり、カッティングにテンポとリズムを持たせたりしてね、そういう工夫をして幅を広げていったって事が、ハリウッドと違う形のアニメを整えていったんだよ。」
「この間海外で、松本零士さんや外国のアニメーターを招いて『銀河鉄道999』の試写会をやったんだよ。皆技術の高さに驚いていたね。
松本零士さん関連でりっちゃんが関わっているのは『キャプテンハーロック』あれも小松っちゃんがやって…あのオープニング凄かったねぇ。小さい画面にアルカディアがあんなに大きく見えるってのはビックリしたねぇ。で、『999』の監督を誰にするっていう時に、あのオープニングを観て「りんたろうさん」って決めていたんだよ。当然作監は小松っちゃんだよな、ってなって…。」
なみき氏 「今、日本のアニメってのは海外から注目されていて、特に技術力に注目されているな…と思いますね。小松原さんも、海外の仕事をしたことがあるんですが、なんだか『技術』だけを求められていたみたいで、ゼンゼン絵が生きてなかったというか…。」
りん氏 「うん、ユニバーサルとかでも、大体最後に話を詰めていくと『技術』が欲しいって言われるね。それで、今何件か断っているのは「僕らは技術だけを売るのではないんです。つまり、こういうシナリオがあってこういう企画があるから、それに対してこういう技術なんです。」って言って、丁重にお断りしているんだよね。もちろんお金はいくらでも出しますよって言われるんだけど(笑)
たとえば、『タイタニック』を作ったジェームスが、どーしてもアニメーターが欲しかった。それでとにかくギャラは好きなだけ払うから、次の作品に協力してくれって言われたんだよ。彼は日本人の中の「状況に対して生み出すアイディア」が欲しかったんだね。アメリカだと、1年かかってもそういう感覚は無いんだって。
…で、僕らは「日本で好きなアニメが作りたいから、ごめんなさい。」って(笑)
ディズニーなんかは『美女と野獣』以降、凄く日本的だしね。結構日本のアニメをバカにしているように見えて、実は裏で姑息なくらいに技術を盗んでいるんだよね。」

さらに上を…
りん氏 「今みたいに3DCGやデジタル技術が売り物にならなくなる時が来る。その時になったら、わざわざ下絵を描いて…とかじゃなく、タブレットで直に描き込んだりできるようになると思うよ。きっと鉛筆でもなく、デジタルでもない、新らしい線が描けるはず、その時また『新しい小松原一男の世界』ができるんだって言ってたんだ。小松っちゃんは、周りから見るよりどっか自分の絵を変えたかったんだよ。そこが違うところなんだね。あの人はもうあの絵で食えるのに、考えているんだよ。」

りんたろう氏… 『劇場版銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』を生んだ監督。小松原の遺作となった「メトロポリス」も監督した。
高見義雄氏… 東映の『銀河鉄道999』『連如物語』など数々の作品のプロデューサー。